バーキンの中古プレミアムが縮み、UBSがエルメスを「売り」に格下げ。希少性で稼ぐ高級ブランドの仕組みと、二次流通価格が映す需要の変化を読み解き、企業の実務への示唆を整理します。

ニュースの概要

スイスの大手金融グループUBSが、フランスの高級ブランド、エルメス・インターナショナルの投資判断を「売り」に引き下げた。理由の一つとして挙げられたのが、代表商品バーキンバッグの中古市場で、新品価格との差(プレミアム)が縮んでいることである。バーキンは、店頭で買えない人が多いほど、中古に新品を上回る値が付いてきた。その上乗せ分が薄くなったということは、「手に入らないから価値がある」という希少性の物語に、少しずつほころびが出ている可能性を示す。エルメスは高級ブランドの中でも別格の収益力を誇ってきただけに、市場への衝撃は小さくない。

引用元: バーキンバッグの中古プレミアムが縮小、エルメスの希少性ビジネスモデルにUBSが「売り」へ格下げ(BigGo ファイナンス)

分析・見解

中古の上乗せ分は、希少性の体温計だった

バーキンの中古価格は、これまで「新品より高い」ことが珍しくなかった。店頭で買えない人が、待たずに手に入れるために差額を払うからである。この差額は、ブランドの人気を測る体温計のように働いてきた。

ところが今回、その差額が縮んでいる。理由は単純ではない。中古品の出回る量が増えたこと、新品の値上げが続いて割高感が出たこと、買い手の財布が慎重になったことが重なっている。体温計の数字が下がったからといって、すぐ病気とは言えない。ただ、熱が引き始めた事実は無視できない。

「売らない」ことで稼ぐ商売の弱点

エルメスの強みは、需要より少なく作り、あえて売らない点にある。買えない人が増えるほど憧れが育ち、既存の顧客は「買えた自分」に価値を感じる。これは広告費をかけずに熱量を保つ、きわめて効率のよい仕組みだ。

しかし、この仕組みには弱点がある。希少性は「皆が欲しがっている」という共通の了解の上に成り立つからだ。中古市場で値が崩れ始めると、「買っておけば値上がりする」という投資的な動機が先に冷める。投資目的の買い手が抜けると、本当に使いたい人だけが残り、需要の裾野は細くなる。

他ブランドとの比較で見える、エルメスの特殊性

他の高級ブランドは、ここ数年で値上げを重ねてきた。シャネルのクラシックフラップは、数年で価格が大きく上がり、中古との差が縮まったと言われる。つまり新品が高くなりすぎると、中古の割安感が際立ち、中古側の上乗せは自然に薄れる。

エルメスは作りの品質や革の素材で格別の評価を受けるため、他社より耐性は強い。それでも、値上げと希少性の両方で顧客を引っ張る手法には限りがある。ここで一つ、独自の見方を示したい。中古プレミアムの縮小は、需要の弱さだけでなく、「新品を買える人が増えた」結果として起きている可能性もある。店舗での割り当てが緩めば、転売で稼ぐ余地が減るからだ。この場合、プレミアムの縮小は、ブランドが顧客に近づいている証拠にもなる。

今後の焦点は、数字より「語り方」の変化

投資家が注目するのは、売上の伸びが鈍るかどうかである。ただ、それ以上に重要なのは、ブランドが希少性をどう語り続けるかだ。値上げと供給制限だけに頼る手法は、景気が揺らぐと脆い。職人技、修理の対応、長く使える設計といった「物としての価値」を前面に出せるかが、次の分かれ目になる。希少性は魔法ではなく、信頼の積み重ねである。

ビジネスへの影響

自社の「希少性」は何で支えられているか点検する

限定販売や会員制、数量制限は、多くの企業が使う手法である。しかし、希少性だけで価値を保っている商品は、二次流通で値が崩れた途端に説得力を失う。まず、自社の商品の価値が、品質や体験といった中身に根ざしているのか、数の少なさに頼っているのかを分けて考えたい。中身が弱いなら、供給を絞るより先に改善へ投資すべきだ。

中古市場の価格を、無料の市場調査として使う

二次流通の価格は、顧客が本当に払ってよいと考える金額を映す。フリマアプリや専門の買取サイトの相場を定期的に追えば、新品の値付けが妥当か、値上げの余地があるかを探る材料になる。リセール価値が高い商品は、買い手の安心感にもつながる。自社で下取りや認定中古の仕組みを持つことは、新規顧客の入り口を広げる手段にもなる。

投資家や取引先への説明で、数字の読み方を備える

格下げのニュースは、企業の価値そのものより、期待の水準が変わったことを示す場合が多い。自社が成長を語る際には、売上だけでなく、再購入率や顧客の入れ替わり、価格を上げても離れない度合いまで示すと説得力が増す。期待を高く設定しすぎない広報も、長期の信頼につながる。

関連記事