Fortune Business Insightsが示したアパレル市場の2034年予測を手がかりに、地域別の成長差、ネット通販による返品負担、廃棄規制の影響、在庫管理の精度まで、日本の事業者が取るべき対応を具体的に解説します。市場規模の数字を事業計画に落とし込む視点も紹介。
ニュースの概要
Fortune Business Insightsが、アパレル市場の規模やシェア、今後の動向を2034年まで見通した調査レポートを公表した。衣料品は景気が悪くても一定の需要がある一方、ネット通販の拡大、価格帯の二極化、環境配慮への要請など、構造の変化が同時に進んでいる。レポートは地域別、製品別、販売経路別に市場を整理し、長期的な拡大基調を前提に主要企業の動きも取り上げている。ただし、重要なのは数字そのものよりも、何が成長を押し上げ、どこに不確実性があるかを読み解くことだ。本稿では、調査が示す大枠を手がかりに、日本の事業者が受け止めるべき論点を整理する。
引用元: アパレル市場規模、シェア、将来動向と予測、2034年(Fortune Business Insights)
分析・見解
市場は伸びても、伸びる場所は地域ごとに違う
長期予測が描くのは、人口増加と新興国の所得向上に支えられた、世界の衣料品需要の緩やかな拡大である。ただし、市場全体が伸びることと、個々の企業が伸びることは別の話だ。
成長の中身を見ると、アジアや中東では中間層が厚くなる一方、日本や欧州では人口が増えず、買い替えの頻度も頭打ちになりやすい。ファーストリテイリングで海外ユニクロ事業の売上が国内を上回っているのは、その象徴である。同じ「市場拡大」でも、地域によって意味がまるで違う。
ネット通販の拡大が、返品と在庫の負担を重くした
販売経路では、ネット通販の比率が年々高まっている。SHEINのように、小さな単位で大量の新作を試し、売れた型だけを追加で作る企業が伸びた。従来は半年前に色や数量を決めていたが、今は数週間単位で回す。
消費者は「いつも新しい服が出ている」状態に慣れた。一方で、返品率の高さは利益を圧迫する。サイズが合わない、写真と色が違うといった理由で戻った商品は、検品や再販売に手間と物流費がかかる。売上が伸びても、返品を引いた利益で見ると差が出る。この点は、市場規模の数字だけでは見えにくい。
廃棄規制と原材料高で、安く作って売り切る型が揺らぐ
環境への要請も、事業の前提を変えつつある。フランスは売れ残った衣料などの廃棄を禁じる法律を整え、欧州連合は製品の素材や製造履歴を開示させる仕組み(=デジタル製品パスポート)の導入を進めている。欧州へ輸出する日本の企業も、無関係ではいられない。
「安く作って売り切る」型は、廃棄の規制と原材料の値上がりで成り立ちにくくなる。一方、環境対応は費用であるだけでなく、中古販売や修理といった新しい売上の入口にもなる。日本ではメルカリなどの個人間取引が定着し、服を一度買って終わりにしない行動が広がっている。
2034年の勝敗は、在庫を決める精度で分かれる
予測レポートの数字は、平均的な未来を描く。しかし現場では、天候が少しずれるだけで冬物の在庫が大きく狂う。暖冬の年に売れ残りが積み上がるのは、アパレルが何度も繰り返してきた失敗である。
私は、2034年に向けて勝敗を分けるのは、デザインや価格よりも「何枚つくり、どこに置き、いつ値を下げるか」を決める精度だと考える。需要の予測と在庫の配置が整った企業は、同じ市場の拡大からより多くの利益を取れる。市場規模の予測は、自社の弱点を探すための地図として読むのが実用的だ。
ビジネスへの影響
売上を「地域」と「販売経路」に分けて見直す
市場全体の予測をそのまま事業計画に当てはめると、判断を誤る。まず自社の売上を、国内と海外、店舗とネット、定価販売と値引き販売に分けて、それぞれの伸びを確認したい。国内が横ばいなら、伸びる余地は海外か、新しい販売経路にある。海外へ出る場合は、現地の気候や体型、服装の習慣に合わせた商品設計も欠かせない。どこで戦うかを先に決めるほうが、商品の数を増やすより効果は大きい。
返品と売れ残りのコストを、数字で管理する
ネット販売を広げる企業は、返品率とその処理費用を商品ごとに把握する必要がある。サイズ表の見直し、着用写真の追加、実寸の掲載といった地味な対策で、返品が減る例は多い。在庫面では、最初の発注量を絞り、売れ行きを見て追加で作る方式を一部の商品で試すとよい。全商品で行う必要はない。定番品は通常どおり、流行に左右される商品だけを短い周期で回すと、無理がない。
中古と修理を、小さく試して売上の柱に育てる
欧州向けの規制を待つ必要はない。自社ブランドの下取りや簡単な修理の受付を、まず数店舗で試す方法がある。回収した服は、再販売、素材の再利用、寄付に分ける。回収の仕組みは、物流会社や既存の中古販売サービスと組むと初期費用を抑えられる。顧客と継続的に接点を持てるため、新品の購入にもつながりやすい。小さく始め、費用と反応を三か月ほど測ってから広げるのが現実的である。
